講演者:篠原由紀子 会員

8月2日西老人会で講演しました。当日は有難いことに、暑さも雨も中休みのような過ごしやすい天候で、たくさんの方にお集まりいただきました。この会場でも、とても聞き上手な方がいらしたので、民話の語り手としては大助かりで、語りに自然と力が入りました。

はじめに、老入(おいいれ)という言葉について。江戸時代は老後のことを老入と呼んでいました。現代のように若さに価値をおくのではなく、むしろ年を重ねていった人生の後半にこそ価値がある、といった考え方が主流でした。老後より、老入の方が老いを前向きに捉えたよい言葉なので紹介しました。

今回は真夏の講演なので、熱中症の対策と、高齢者によくみられる「かくれ脱水」とは何かについて説明して、体調の悪いときは、大勢の集まるイベントに無理して参加しない方がよいことを、お話しました。そして携帯用に自分で作れる「ペットボトルで作る簡単経口補水液」の作り方を説明し、飲み込むときにむせやすい方にはとろみ剤や市販のゼリータイプのものもあると紹介しました。

民話語りは夏の民話を中心に語りました。
昔話はいつ、どこで、だれが聞いても、すぐに自分に置き換えて物語の中に入っていくことができるのが魅力であり、庶民の生活の全てが詰まっています。聞き手は知らぬ間に、ものの考え方や生活の知恵などを学び、心の滋養にもなってきました。語り手と聞き手の間に生まれる緩やかな絆は、相手の気持ちを理解し共感できるという人間だけがもつ細やかなコミュニケーション能力によるものです。このようなコミュニケーション能力は、家族や友人と良好な対人関係を築いたり、健康を保つにも必要です。

そもそも健康を意識するようになったのは、江戸時代の元禄以降であると言われています。それ以前は、長いこと戦乱の中にあり、飢饉や疫病が日常化していたため、生きていくことに精一杯で我が身の健康を気遣う余裕などなかったからです。栄養や衛生の知識が乏しく、多くの人が出産や乳幼児期に命を落としました。しかし、15歳を過ぎて生き延びた人の平均寿命は45歳で、結構長生きをした人もいます。『養生訓』を書いた貝原益軒や『解体新書』の杉田玄白は享年85歳。80代90代で君主に仕えていた武士の記録も残っています。江戸時代の人々は、日頃から家族の健康を守ることは、社会人としての責任であると考えていたようです。その健康心得とは、食事に気を付け、疲れをためないようきちんと休むこと。身体だけでなく心の保養に心がけること、病気になる前の未病の段階で予防策をとることが肝心など、現代でも十分に通用するものです。

・民話語り…二つの「せみ」、「ほたる御殿」、「竜ヶ渕」、「へっこき嫁さ」、「ぼたもち蛙」